その他の肛門疾患

その他の肛門疾患

おしりから出血肛門疾患というと痔のイメージが強いと思いますが、それ以外にも注意が必要な病気がいくつかあります。また、症状として痔が現れる疾患、進行すると痔を発症する疾患などもあります。生活の質を守るために、早期の受診が重要な病気が多いので、おしりになにか症状があったら、早めにいらしてください。

クローン病

口から肛門までの消化管に炎症を起こす慢性疾患で、症状として痔を発症させやすい病気です。原因がよくわかっていないことから根治できないため、厚生労働省によって難病と指定されています。若い世代の発症が多い傾向があります。症状が現れる活動期と治まる寛解期を繰り返しながら悪化していきますが、炎症を抑える治療を続けることで普通の生活を送ることも可能です。
クローン病で炎症が起きやすいのは小腸と大腸です。潰瘍を生じやすく、腹痛、下痢、血便や下血、発熱、体重減少などの症状を起こします。また、活動期の炎症が広範囲になると栄養障害を起こすこともあります。

クローン病と肛門疾患

クローン病は、合併症が多い病気で、特に痔をはじめとする肛門疾患を伴うことがよくあります。切れ痔、肛門周囲膿瘍からの痔ろう、肛門潰瘍、肛門狭窄、肛門の皮膚が垂れ下がる肛門皮垂、そして女性では肛門内から膣までつながるトンネル状の穴ができてしまう肛門膣瘻などです。こうした合併症によってクローン病のあることがわかるケースも珍しくありません。
初期に症状として現れやすいのは肛門潰瘍や切れ痔で、細菌感染などによって痔ろうや肛門膣瘻などを発症しやすくなっています。また、クローン病の痔ろうでは、トンネル状の穴が複雑に枝分かれしやすい傾向があります。

クローン病と合併した肛門疾患の治療

クローン病は炎症を抑える治療を中心に行っていきます。炎症が広範囲で栄養障害が懸念される場合には栄養療法が必要になります。症状が治まっている寛解期にも治療を続けて再燃させないようにしていきます。痔ろうがある場合には、症状が治まった寛解期に手術を検討します。クローン病の適切な治療を行わないで他の肛門疾患の治療のみ行っても治りにくく、再発しやすい状態になってしまいます。まずはクローン病の治療を優先し、寛解させることが重要です。

直腸脱

直腸が肛門から飛び出してしまう状態です。最初は痛みなどの症状がありませんが、進行すると強い痛み、出血、感染などを起こし、便失禁や排便障害を来すこともあります。また、嵌頓を起こすと激しい痛みを生じます。早期に気付くポイントに、下着の汚れがあります。

直腸脱の症状

  • 下着が汚れる
  • 残便感、排便後もすっきりしない
  • 下腹部や肛門周辺の違和感
  • 排尿困難
  • いきみや歩行で脱出する
  • 便失禁や排便困難

直腸脱の原因

肛門は括約筋や肛門挙筋などによって固く閉じています。加齢などによる筋力の低下は括約筋などにも及び、肛門がゆるんでしまいます。発症のきっかけは、排便時の強いいきみが圧倒的に多く、便秘がちで習慣的に長時間強くいきむ方は発症しやすい傾向があります。
なお、直腸の角度やその先にあるS字結腸の長さなどの構造的な問題によって発症するタイプの直腸脱がありますが、これは若い男性に多くなっています。他に小児が起こしやすい直腸脱もありますが、ほとんどの場合、筋肉の発育不全によるものです。成長により解消に向かうケースが多いのですが、慎重な経過観察が必要です。

直腸脱の治療

脱出した状態を確認して内痔核などとの鑑別、肛門括約筋の収縮力確認、下肛門内圧検査、排便造影検査、大腸内視鏡検査などから必要な検査を行います。直腸脱であると確定診断されたら、手術を検討します。脱出が軽ければ経肛門的手術という内視鏡による日帰り手術で治せます。脱出部分を糸で縛る三輪-Gant法、脱出部分の奥にある筋肉を縫い縮めるデロルメ法などがあります。ただし、脱出が大きい場合には開腹手術が必要です。
手術の検討では、年齢、再発率などを考慮する必要があります。なお、手術後は再発防止のために括約筋の筋力トレーニングや便秘の解消、正しい排便習慣を身に付けるなどが重要です。

肛門掻痒症・肛門周囲炎

肛門から出てくる分泌液によって肛門周囲の皮膚に湿疹ができています。原因疾患に痔があるケースもよくあります。
他の原因として汗などによるかぶれ、陰部のカンジダの波及などがありますが、おしりのかゆみと軽く考えず、必ず受診してください。

肛門周囲膿瘍

進行すると痔ろうを発症させる病気で、強い痛みと腫れ、発熱を起こします。
症状が起こったらすぐに受診してください。放置して症状が解消する場合もありますが、その場合はすでに痔ろうを発症しています。
痔ろうになると、治すためには手術が不可欠です。

 肛門尖圭コンジローマ

ヒトパピローマウイルスの感染によって肛門周囲にイボのような小さな突起ができる性感染症です。10代後半~30代の発症が多く、性行為中に皮膚や粘膜から感染します。そのため、肛門周囲だけでなく性器周辺に病変が現れることもあります。
潜伏期間は3週間~8ヶ月程度で、イボ状の突起が現れます。数mm~数cmで先が尖っているものが多く、白・ピンク・茶・黒など色はさまざまです。進行すると数が増える、突起が大きくなってカリフラワー状・鶏のトサカ状になることもあります。アナルセックスで感染した場合、肛門内部にびっしり突起ができてしまうこともあります。痛みやかゆみはありませんが、数が増える・広がる傾向がありますし、ご自分が感染源になって大事な方にうつしてしまいますので、必ず受診してしっかり治しましょう。

ヒトパピローマウイルスについて

ヒトパピローマウイルスというと子宮頸がんの原因として知られていますが、肛門尖圭コンジローマを起こすヒトパピローマウイルスとはタイプが違います。ヒトパピローマウイルスには100種以上のタイプがあり、がん化するものは高リスクのもので、尖圭コンジローマはほとんどが低リスクタイプによって発症しています。ただし、低リスクと同時に高リスクタイプのウイルスに同時感染しているケースがあり、尖圭コンジローマにそっくりなボーエン様丘疹症を合併しているケースもあります。当院では、タイプの違いもしっかり検査で確かめています。

パートナーの受診も不可欠です

性行為によって感染する性感染症ですから、発症していなくてもパートナーの方はすでに感染している可能性がかなり高いと言えます。自然治癒がほとんどない病気ですから、パートナーの方の受診も不可欠です。

肛門尖圭コンジローマの治療

軟膏による薬物療法を行っていきます。突起が大きくなってしまった場合には、除去する必要があります。メスや鉗子による外科的切除の他に、液体窒素による凍結、高周波電気メスによる焼灼なども可能です。基本的に日帰り手術で受けられますが、病変の大きさや深さ、切除する数などによりお仕事への復帰時期は1~数日とやや幅があります。
なお、完治するまで性行為は禁止ですし、公衆浴場やサウナ、温泉などの利用も控えます。ご家族が感染していない場合には、バスタオルの共有もしないでください。
大事なご家族やパートナーにうつさないために、しっかり治すことが重要です。また、潜伏したウイルスによって再発することが多いため、再発に気付いたらすぐに受診してください。

単純性ヘルペス

唇にできるヘルペスと同じく、ヘルペスウイルスの感染によって起こります。
水疱や潰瘍が治ってもウイルスが潜伏しているため、疲労やストレスで免疫力が下がると再び症状が現れます。女性が発症すると最初の症状がとても強く出やすい傾向があり、歩行が難しくなることもあります。主な症状としては、肛門周囲の水泡で、数多くできることもあります。治療には内服薬を主に用います。

毛巣洞

皮膚の中に体毛が入り込んで感染し、膿がたまる病気です。毛深いとなりやすく、尾てい骨周囲に発症しやすくなっています。手術による治療を検討します。

乳児痔ろう

成人の痔ろうと違い、成長によって完治することが多くなっています。
ただし、慎重な経過観察が必要ですし、クローン病の症状として痔ろうが現れている可能性もあります。必ず専門医を受診してください。

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